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大阪地方裁判所 平成4年(ワ)1551号 判決

本訴原告(反訴被告)

出羽隆幸

本訴被告(反訴原告)

登収廣

本訴被告

安田火災海上保険株式会社

主文

一  本訴原告の本訴被告らに対する本訴請求、反訴原告の反訴被告に対する反訴請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用のうち、本訴について生じたものは本訴原告の負担とし、反訴について生じたものは反訴原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  本訴

1  本訴被告、反訴原告登(以下、単に「被告登」という。)は本訴原告、反訴被告(以下、単に「原告」という。)に対し、金一二六七万九六三六円及び内金一一五五万八八二七円につき平成二年一月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  本訴被告安田火災海上保険株式会社(以下、単に「被告安田火災」という。)は原告に対し、金三一六万円及びこれに対する右同日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

二  反訴

原告は被告登に対し、金四八三万三九四一円及びこれに対する平成二年一月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告登が自動二輪車(以下「被告車」という。)を運転して交差点を直進通過しようとした際、左方道路から進行してきた原告が運転する普通乗用自動車(以下「原告車」という。)と衝突した事故について、原告が被告登に対して民法七〇九条に基づき損害賠償を請求するとともに、被告登との間で自賠責保険契約を締結していた被告安田火災に対して自賠法一六条一項に基づく損害賠償を請求し(本訴請求)、被告登が原告に対して民法七〇九条に基づく損害賠償を請求した(反訴請求)ものである。

一  争いのない事実等

1  交通事故の発生

日時 平成二年一月六日午前二時三七分ころ

場所 大阪府高槻市萩之庄四丁目二八九番地先路上

態様 被告登が被告車を運転して交差点を直進通過しようとした際、左方道路から進行してきた原告が運転する原告車と衝突した。

2  損害の填補

(一) 原告は、本件事故に関し、自賠責保険から一二〇万円の支払を受けた(以上につき、原告と被告登、被告安田火災との間に争いがない。)。

(二) 被告登は、本件事故に関し、自賠責保険から一二〇万円の支払を受けた(弁論の全趣旨)。

3  自賠責保険契約

被告安田火災は、被告登との間で、自賠責保険契約を締結していた(原告と被告安田火災との間に争いがない。)。

二  争点

1  本件事故における原告及び被告登の民法七〇九条に関する過失の有無(原告は、被告登が本件交差点の手前で対面信号が黄色を表示しているのを見た後、信号を確認せず、赤色に変わつているのを見過ごして本件交差点に進入した過失があると主張する。これに対して、被告登、同安田火災は、被告登が本件交差点を通過しようとした際、対面信号は黄色であつたから、原告の対面信号はまだ赤色であつたにもかかわらず、原告には、深夜で通行量が少ないことから赤信号を無視して直進した過失があると主張する。)

2  原告の損害額(治療費、交通費、休業損害、逸失利益、通院慰謝料、後遺障害慰謝料、弁護士費用)(原告は、頸部痛が残存することを理由に自賠法施行令二条別表一四級一〇号に該当する後遺障害があると主張するとともに、両眼の眼球に著しい調節機能の低下があることを理由に同表一一級一号に該当する後遺障害があると主張する。これに対して、被告安田火災は、四輪車である原告車に二輪車である被告車が出会頭に衝突した本件事故で、原告主張の傷害や後遺障害が発生するとは考えられないうえ、原告は本件事故の八日後に数人から暴行を受けて全身に負傷し、病院で治療を受けていることから、原告主張の後遺障害はこの暴行に起因していると主張するとともに、原告主張の頸部痛は他覚的所見に乏しいもので、同表一四級一〇号には該当せず、また、両眼の調節機能低下については、眼科上の器質的損傷がなく、原告が右障害を訴えたのは本件事故から一年七カ月以上経過後であるほか、原告の調節機能低下が正常人の二分の一を下回らないとして、同表一一級一号には該当しないと主張する。さらに、被告登は、原告が主張する後遺障害は、本件事故とは因果関係がないと主張する。)

3  被告登の損害額(治療費、シーツ代、入院雑費、装具代、通院交通費、休業損害、逸失利益、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、弁護士費用)

4  被告安田火災に対する請求に関する遅延損害金の起算日(原告は、本件事故発生日であると主張するが、被告安田火災は、民法四一二条三項により被告安田火災が原告から履行の請求を受けた日から遅滞になると主張する。)

5  被告安田火災に対する請求に関する遅延損害金の利率(原告は、年六分の遅延損害金を主張するが、被告安田火災は、仮に原告に後遺障害が存在するとしても、商法五一四条の債務には該当しないとして年五分を主張する。)

6  過失相殺(被告登は、本件事故発生について、原告に九〇パーセントの過失があると主張し、原告は、右主張を争う。)

第三争点に対する判断

一  証拠(甲一の4ないし6、二、三、七、乙五ないし一七、丙一、五ないし一一、一四、原告、被告登各本人)によれば、以下の事実が認められ、甲第七号証、乙第六、第一二、第一三号証、丙第一四号証、原告、被告登各本人尋問の結果のうち、右認定に反する部分はいずれも採用できない。

1  本件事故状況

(一) 本件事故現場は、別紙図面のとおり、東西に伸びるセンターラインのある片側二車線(西側四車線)の道路(以下「東西道路」という。)と、北東から南西に流れる桧尾川の東側沿いにある道路(以下「川沿い道路」という。)とが交差する信号機による交通整理の行われている交差点(以下「東詰交差点」という。)である。また、東詰交差点のすぐ西側には、桧尾川にかかる橋があり、この橋の西詰付近には、桧尾川の西側沿いにある道路と東西道路との交差点(以下「西詰交差点」という。)があつて、信号機による交通整理が行われている。そして、東詰交差点、西詰交差点の各信号機の表示周期は別紙信号表示周期見取図記載のとおりである。本件事故現場付近における東西道路の制限速度は、時速五〇キロメートルで、東西道路を西詰交差点に向かつて東進してくると、桧尾川にかかる橋に向かつて登り坂になつている。さらに、東西道路を東詰交差点に向かつて東進する車両と、川沿い道路を東詰交差点に向かつて南進する車両とは、橋に設置されている欄干等のため、互いに見通しが悪くなつている。

(二) 本件事故当時、被告登は、被告車を運転して東西道路を東進し、時速約五〇キロメートルの速度で本件事故現場の手前約六九メートルの別紙図面〈1〉地点(以下、別紙図面上の位置は、同図面記載の記号のみで表示する。)に差しかかつた。その際、被告登は、進路前方の西詰交差点に設置されている別紙図面〈A〉の対面信号(以下「A信号」という。)と東詰交差点に設置されている別紙図面〈B〉の対面信号(以下「B信号」という。)とを見たところ、A信号が赤色を、B信号が黄色をそれぞれ表示していた。しかし、被告登は、西詰交差点、東詰交差点を通過できると判断し、ほぼ同一速度のまま、西詰交差点に進入して走行中、東詰交差点の東側の西行車線上にタクシーが停止しているのを認めた。そして、被告登は、〈1〉地点から〈2〉地点(〈1〉地点から約三九・五メートル先の地点)を経て〈3〉地点(〈1〉地点から約五七メートルの地点)まで進行したところで、川沿い道路から東詰交差点に向かつて原告車が進行しているのを進路左前方約一四メートルの〈イ〉地点に認め、急ブレーキをかけたが間に合わず、〈3〉地点から約一二メートル先の〈5〉地点で、被告車の前部が原告車の右前側面に衝突した。右衝突後、被告車は〈5〉地点から約〇・五メートル離れた〈6〉地点に転倒した。本件事故によつて、被告車は、前部フエンダーが割損し、ホークが曲がるなどの損傷を受けた。

(三) 本件事故当時、原告は、シートベルトを着用して原告車を運転し、川沿い道路を東詰交差点に向かつて南進し、別紙図面〈C〉の対面信号(以下「C信号」という。)が赤信号であつたため、停止線の手前の〈ア〉地点(本件事故現場の手前約一五・五メートルの地点)で停止し、前照灯をいつたん消した。その後、原告は、原告車の前照灯を点灯し、変速機(オートマチツク車)をドライブに入れて発進した(原告が右発進前に、東詰交差点の東側の西行車線上に二車線とも三台ずつ程度の車両が停止しており、タクシーがいずれも先頭で停止していた。)。そして、原告は、時速約二〇キロメートルの速度で〈ウ〉地点(〈ア〉地点から約一二メートル先の地点)まで進行したところで、東西道路を東詰交差点に向かつて原告が走行してくるのを進路右前方約一一メートルの〈4〉地点に認め、急ブレーキをかけたが間に合わず、〈ウ〉地点から約三・五メートル先の〈エ〉地点で、被告車と衝突した。ところで、原告が、右のとおり東詰交差点に向かつて発進する前に、東詰交差点の東側の西行車線上にタクシーが先頭で停止しているのを見た。右衝突後、原告車は、〈エ〉地点から約一・五メートル先の〈オ〉地点に停止した。本件事故によつて、原告車は、右前側面フエンダー、バンパー等が凹損した。

2  原告の受傷及び治療経過等

原告は、本件事故当日、みどりケ丘病院で受診した。原告は、右初診時に、右前額部に擦過傷があり、頭痛を訴え、上腕二頭筋反射に異常があり、上腕三頭筋反射、橈骨反射の異常はいずれも明確ではなく、また、ホフマン反射には異常がなく、レントゲン検査の結果にも異常がなかつた。そして、右病院の医師は、頭部打撲兼皮下血腫、頸部挫傷、頸椎捻挫と診断し、ネツクカラー、湿布、投薬による治療をした。原告は、本件事故から四日後の平成二年一月一〇日に右病院に通院した際、首の痛みを訴えており、投薬による治療を受けた。また、原告は、本件事故から一週間後の同年一月一三日に右病院に通院した際、頸部の痛みが低下したものの、両肩関節部あたりの痛みを訴えており、痛み止めの注射による治療を受けた。その後、原告は、同年一月一四日ころ、数人から袋叩きの暴行を受け、同月一六日に右病院で治療を受けたが、下顎のレントゲン検査の結果に異常はなく、医師は、右、左下顎部痛、後頭部痛、左肩甲部痛、腰部痛、左臀部痛、両下腿擦過傷と診断し、湿布、投薬による治療をした。さらに、原告は、右病院で、B型肝炎と診断された。原告は、その後、主に頸部の痛み、だるさを訴え、平成三年三月二三日まで、右病院に通院(右初診日からの実日数一一八日)して、理学療法、湿布、投薬による治療を受けた。そして、右病院の医師は、原告の頸椎捻挫、頸部挫傷、頭部打撲兼皮下血腫の傷害が、平成三年三月二三日に症状固定した旨の後遺障害診断書を作成した。右症状固定日当時、原告には、右頸部痛のため同一の姿勢では三〇分程度で著しい疼痛が生じ、細かい作業ができず、右手に力が入りにくい、眼の調節障害が著しいとの自覚症状があり、他覚的所見等としては、頸部の筋緊張亢進が著しく、両上肢(とくに右上肢)の筋力低下が認められ(握力は右が三五キログラム、左が五二キログラム)、頸部の可動域は正常であるが、屈曲、伸展で頸部痛の発生が認められた。また、右診断書には、原告の視力について、裸眼、矯正のいずれについても、左右とも視力が一・五であり、調節機能は、左右とも四・五ジオプトリーであるとの結果が記載されている。その後、原告は、平成三年八月二三日に大阪医科大学附属病院で眼の検査を受けた結果、眼の調節幅(調節力)を右が三・九〇ジオプトリー、左が三・九六ジオプトリーであると測定された。正常な三〇歳平均の眼の調節幅は、七プラスマイナス一・〇ジオプトリーである。

3  被告登の受傷及び治療経過等

被告登は、本件事故当日、みどりケ丘病院で受診し、頸部のレントゲン検査の結果、第五頸椎の前方すべりが認められたことから、第五頸椎前方亜脱臼、第五頸椎椎弓骨折、頸髄損傷と診断され、また、両上肢の知覚鈍麻が認められたことから、右初診日から平成二年二月九日まで、右病院に入院して、ポリネツクカラー、投薬、リハビリによる治療を受けた。そして、被告登は、右退院後、平成二年七月二五日まで、右病院に通院(実日数二七日)してリハビリによる治療を受けた。原告には、平成四年四月一一日当時、自覚症状としては、頸筋痛と運動負荷時の左手のしびれ感が残存していたが、他覚的には、運動、知覚、反射等の異常は存在していなかつた。

二  本件事故における原告及び被告登の民法七〇九条に関する過失の有無について

前記一1(本件事故状況)で認定したところによれば、被告登がA信号が赤色でB信号が黄色を表示しているのを認めた〈1〉地点から衝突した〈5〉地点までの約六九メートルの間を時速五〇キロメートル(秒速一三・八八メートル)の速度で走行するのに要する時間は、四・九秒程度であると解され、また、原告車の東詰交差点手前の停止位置である〈ア〉地点から衝突した〈エ〉地点までの約一五・五メートルの間を時速二〇キロメートル(秒速五・五五メートル)の速度で走行するのに要する時間は、二・八秒程度であることから、原告車が〈ア〉地点で停止してから発進したことを加味すると、〈ア〉地点から〈エ〉地点に到達するまでに三秒程度を要したと解され、さらに、A信号の表示と東詰交差点の西行対面信号の表示とは完全に一致しており、また、A信号が赤色を表示してから七秒後にB信号が黄色(三秒間)、赤色を続いて表示するが、B信号が赤色を表示し始めた最初の三秒間は、川沿い道路の対面信号であるC信号も最後の三秒間の赤信号(いわゆる全赤三秒)であることになる。このような原告車と被告車の進行速度、信号関係からすると、原告車は、東詰交差点の信号が全赤の時点で〈ア〉地点を発進し、衝突地点の〈エ〉地点まで進行している途中でC信号が赤信号から青信号に変わつたと解するのが相当である(被告登が〈1〉地点でA信号が赤色、B信号が黄色であることを認めたとの供述は、具体的で十分信用できる。そして、仮に、原告にとつて最も有利であると解される、被告登が〈1〉地点でB信号の黄色を認めた時点が、黄色から赤色に変わる直前であつたとしても、直後の全赤三秒間を被告車が〈1〉地点から秒速一三・八八メートルの速度で約四一・六四メートル進んだ地点でC信号が青信号に変わることになり、その後、被告車は、衝突地点までの残り二七・三六メートルを二秒程度で走行することになる。しかし、前記のとおり、原告が〈ア〉地点から衝突地点の〈エ〉地点に到達するまでに三秒程度を要するから、仮に、原告車が、C信号が青信号に変わつた直後に〈ア〉地点を発進したとすると、〈エ〉地点に到達する約一秒前に被告車が衝突地点を通過していることになる。なお、原告の警察官に対する供述調書中には、原告車が発進前に、東詰交差点の東側の西行車線上に二車線とも三台ずつの車両が停止しており、タクシーがいずれも先頭で停止していたとの記載部分があり、右部分は具体的であるうえ、東詰交差点の東側の西行車線上にタクシーが停止していることは、被告登も警察官に対する供述調書中で認めていることから、右タクシー等の停止状況に関する原告の右供述部分は信用できるが、他方、A信号及び東詰交差点の西行車線上の対面信号がいずれも赤色に変わつてから一三秒後にC信号が青色に変わることから、右タクシー等の停止状況によつて、原告が青信号で発進したことの根拠とするのは相当でない。しかし、右タクシー等の停止状況からすると、B信号及び東詰交差点の西行車線上の対面信号が赤信号に変わつてからある程度の時間が経過していることは明らかであり、B信号の黄色の表示時間、前記被告車の走行経路と速度からすると、被告車はB信号が赤信号を表示している時点で東詰交差点に進入して本件事故を発生させたと解すべきであり、〈2〉地点でB信号が黄色であるのを見たとの被告登の警察官に対する供述調書、被告登本人尋問の結果も採用できない。)

そうすると、原告は、対面信号(C信号)が赤色である時点で発進し、衝突地点に至る途中に対面信号が青色に変わり、その直後に赤信号(B信号)で進行してきた被告車と衝突したもので、本件事故現場が橋の欄干等のため見通しの悪い場所であるのに、対面信号を十分遵守せず、幅員の広い右方道路に対する注意が不十分なまま、原告車を発進させて本件事故を発生させた点で過失があるといわなければならない。また、被告登も、対面信号を遵守せず、本件事故を発生させた点で過失があることは明らかである。

三  原告の損害

1  治療費(請求七七万五五〇〇円)

原告主張の治療費の具体的金額を認定するに足りる証拠がないから、原告の右主張は理由がない。

2  交通費 七八二〇円(請求四万一二〇円)

原告の自宅は大阪府高槻市安岡寺町二丁目にあり、みどりケ丘病院は同市真上町三丁目にある。原告宅から右病院までバスを利用した通院一回当たりの往復交通費は、三四〇円である(甲二、弁論の全趣旨)。

ところで、前記一2(原告の受傷及び治療経過等)で認定したところによれば、原告は、本件事故当日、右前額部に擦過傷があり、頭痛を訴えており、反射の一部に異常が認められたものの、レントゲン検査の結果に異常はなく、本件事故から一週間後には頸部の痛みが低下しており、回復傾向にあつたと解されるが、その翌日に数人から袋叩きの暴行を受け、右、左下顎部痛、後頭部痛等と診断され、以後、理学療法、湿布、投薬による保存的治療が継続されていることからすると、本件事故と相当因果関係のある治療は、平成二年三月三一日まで(通院実日数二三日、乙一四)に限定すべきである。

そうすると、原告主張の交通費については、七八二〇円(右通院実日数二三日に通院一回当たり三四〇円を適用したもの)の限度で理由がある。

3  休業損害 二九万四六六円(請求一二六万四〇一六円)

原告は、昭和六一年から写真スタジオの会社で撮影助手として勤務し、昭和六三年から別の写真スタジオで撮影助手として働くとともに、そのころから、右仕事と並行して、株式会社ムトー輸送サービスで自動車の陸送のアルバイトをしていた。その後、原告は、健康を害したため、平成元年一〇月ころに写真スタジオの仕事を休職し、本件事故当時は、陸送のアルバイトだけをしていた。原告は、平成元年一〇月から同年一二月までの三カ月間に右会社から合計四八万四一一〇円(九〇日で割つた一日当たりの金額は五三七九円)のアルバイト収入を得ていた。原告は、平成二年三月一日から右写真スタジオの仕事に復帰した(甲四の1、2、七、原告本人)。

右に認定した本件事故当時の原告の就労状況によれば、本件事故と相当因果関係のある休業期間は、本件事故当日から平成二年二月二八日までの五四日間であり、右休業期間中、アルバイト収入である一日当たり五三七九円の収入を得る高度の蓋然性があつたと解されるが、右金額を越える収入を得ることができたことを認めるに足りる証拠はない。

そうすると、本件事故と相当因果関係のある休業損害は二九万四六六円(一日当たり五三七九円の五四日分)となる。

4  逸失利益(請求一八八六万六一八七円)

平成三年八月二三日当時、原告には、前記一2(原告の受傷及び治療経過等)で認定した眼の調節幅の低下が認められるものの、右低下が本件事故によつて生じたことを認めるに足りる証拠はない(甲七の陳述書、原告本人尋問の結果中には、平成二年三月初めころから眼の異常に気が付いたとの部分が存在するが、右時期から眼の異常が存在したことを裏付けるに足りる医師の診断書、カルテ等の証拠は存在していないうえ、医師が眼の異常について記載した文書は、平成三年五月一五日発行の後遺障害診断書が最初であり、乙一六の大阪医科大学附属病院のカルテの記載も、平成三年八月二一日当時に受診した原告の訴えを記載したものであることから、右カルテの記載が本件事故によつて眼の異常が発生したことを裏付けるものとは解されない。)。そうすると、原告の主張する自賠法施行令二条別表一一級一号に該当する後遺障害があることを前提とする逸失利益及び被告安田火災に対する自賠責保険金の請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がない。

また、前記一2で認定した症状固定日当時の原告の症状に、前記三2(交通費)で判示した暴行による受傷の事実を併せ考慮すれば、本件事故と相当因果関係のある同表一四級一〇号に該当する後遺障害が存在するとは解されないので、右後遺障害があることを前提とする逸失利益及び被告安田火災に対する自賠責保険金の請求についても理由がない。

5  通院慰謝料 三五万円(請求一五〇万円)

前記一2(原告の受傷及び治療経過等)で認定した原告の症状、治療経過、前記三2(交通費)の判示内容、その他一切の事情によれば、通院慰謝料としては、三五万円が相当である。

6  後遺障害慰謝料(請求三五〇万円)

前記三4(逸失利益)で判示したところによれば、原告には本件事故と相当因果関係のある後遺障害は認められないから、後遺障害慰謝料に関する原告の請求は理由がない。

四  被告登の損害

1  治療費 一七万五七〇円(請求同額)

被告登は、前記一3(被告登の受傷及び治療経過等)で認定したみどりケ丘病院における治療費として一七万五七〇円を要した(丙七)。そうすると、治療費に関する被告登の請求は理由がある。

2  シーツ代(請求四五〇円)

被告登は、前記一3(被告登の受傷及び治療経過等)で認定した入院中、シーツ代、タオル代等として四五〇円を高槻医療サービス株式会社に支払つた(丙三)。しかし、右費用は、後記入院雑費で評価すべきものであるから、シーツ代に関する請求は理由がない。

3  入院雑費 四万五五〇〇円(請求同額)

前記一3(被告登の受傷及び治療経過等)で認定した被告登の症状、治療経過からすると、入院雑費としては、四万五五〇〇円(一日当たり一三〇〇円の入院期間三五日分)が相当である。

4  装具代 一万六八九二円(請求同額)

被告登は、頸椎用装具の装着が必要であり、そのための費用として一万六八九二円を支払つた(丙二、四)。そうすると、装具代に関する被告登の請求は理由がある。

5  通院交通費 一万七八二〇円(請求同額)

被告登の自宅は京都府乙訓郡大山崎町にあり、バスと阪急電車を利用したみどりケ丘病院への通院一回当たりの往復交通費は、六六〇円である(丙一、弁論の全趣旨)。そうすると、被告登の通院交通費に関する請求は理由がある(前記通院実日数二七日に通院一回当たり六六〇円を適用したもの)。

6  休業損害 一三〇万五八六二円(請求一八二万円)

被告登は、本件事故当時、有限会社CSコンクリートで臨時工として働き、平成元年一〇月から同年一二月までの三カ月間に合計七八万円(九〇日で割つた一日当たりの金額は八六六六円。円未満切り捨て、以下同じ。)の給与を支給されていたが、本件事故当日から平成二年三月二〇日まで本件事故により休業した。その後、被告登は、リハビリも兼ねて、同年四月から金馬電機で機械配線のアルバイトをし、月一〇万円から一四万円の給与を支給され、同年八月からは、株式会社大日本科研に勤務し、右会社から平成四年分の給与として四七〇万二七六〇円を支給されている(乙一三、丙九、一二、被告登本人)。

右事実に前記一3(被告登の受傷及び治療経過等)で認定した被告登の症状、治療経過を併せ考慮すれば、本件事故当日から平成二年三月三一日までの八五日間は、七三万六六一〇円(一日当たり八六六六円の八五日分)の休業損害が発生し、その後、同年四月一日から株式会社大日本科研に就職する直前である同年七月三一日までの一二二日間は、五六万九二五二円(金馬電機でのアルバイト収入は月平均一二万円であり、三〇日で割つた一日当たりの金額は四〇〇〇円となるので、本件事故当時の収入日額八六六六円から右四〇〇〇円を控除した残額四六六六円が一日当たりの休業損害となり、右四六六六円に右一二二日間を適用したもの)の休業損害が発生したと解するのが相当である(合計一三〇万五八六二円)。

7  逸失利益(請求一八六万八一四七円)

前記一3(被告登の受傷及び治療経過等)で認定した平成四年四月一一日当時の被告登の症状によれば、被告登には逸失利益を算定すべき後遺障害が残存しているとは解されないので、逸失利益に関する被告登の請求は理由がない。

8  入通院慰謝料 八〇万円(請求一三〇万円)

前記一3(被告登の受傷及び治療経過等)で認定した被告登の症状、治療経過、その他一切の事情によれば、入通院慰謝料としては、八〇万円が相当である。

9  後遺障害慰謝料(請求九〇万円)

前記一3(被告登の受傷及び治療経過等)で認定した平成四年四月一一日当時の被告登の症状に、前記四7(逸失利益)の判示内容を併せ考慮すれば、後遺障害慰謝料に関する被告登の請求は理由がない。

五  過失相殺

前記二で判示したところによれば、被告登は、対面信号を遵守せず、本件事故を発生させた点でその過失は重大であるが、他方、原告も、右方道路の見通しが悪い交差点であつたにもかかわらず、幅員の広い右方道路を十分注意しないまま、対面信号が赤色の時点で発進し、衝突地点に至る途中に対面信号が青色に変わり、その直後に赤信号で進行してきた被告車と衝突した点で過失があり、右諸事情を考慮すれば、本件事故発生について、被告登には六〇パーセントの、原告には四〇パーセントのそれぞれ過失があると解される。

そうすると、原告の前記損害合計額六四万八二八六円(前記三の2、3、5)に右過失割合を適用した過失相殺後の金額は、三八万八九七一円となり、被告登の前記損害合計額二三五万六六四四円(前記四の1、3ないし6、8)に右過失割合を適用した過失相殺後の金額は、九四万二六五七円となる。

六  以上によれば、原告及び被告登の各損害(前記五の過失相殺後の各金額)は、前記第二の一2記載の各支払によつて填補ずみであるからいずれも理由がなく(各弁護士費用を相手方に負担させるのも相当でない。)、原告の被告安田火災に対する請求はその余の点につき判断するまでもなく理由がない。

(裁判官 安原清蔵)

信号周期表見取図

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